宮古馬

プロフィール

馬種名宮古馬みやこうま
ふるさと沖縄県宮古島市(宮古島)
体高110~120cm
体重200kg
飼育頭数48頭(2023年,保存団体報告値)
保護指定沖縄県天然記念物(1991年)
毛色鹿毛が多い。
栗毛、河原毛、月毛、粕毛もいる。
まれに青毛。
鰻線が見られる。

歴史と課題、そしてこれから

これまでのあゆみ

宮古島は沖縄本島から南西に約290km、太平洋と東シナ海の間に位置する離島です。

宮古馬は、推定14世紀以降に大陸から渡来した「琉球馬」の末裔ともいわれています。
当時はミンシン(現在の中国)への献上品・交易品として利用されていました。

江戸時代になると琉球王府の厳しい管理下に置かれ、江戸幕府への献上品とすることで、琉球王府の体制を維持するために役立てられるようになります。
献上された御用馬は役人が乗る乗馬や駅馬・伝馬(街道に配置された乗り継ぎ用の馬)となったほか、中国使節団の歓送迎にも使われました。
一方、島内の農家では、主にサトウキビの収穫・運搬で活躍していました。

琉球王府の管理がなくなった明治時代以降、比較的大きめの馬は本土へ移出され、外国産馬との混血が進みました。
さらに、宮古島にも在来馬の去勢を命じる法律の影響が及びそうになりましたが、島民が一致団結して抵抗した結果、去勢を逃れた小型の馬は生き残ることができました。

宮古馬は長年サトウキビ運搬に従事してきたので、荷崩れを起こさないために、揺れの少ない側対歩が身についているといわれます。※側対歩:同じ側の脚が同時に前に出る歩き方。
側対歩のことを島では「コースキ」と言います。
参考:ジョッパーズ『馬の歩き方、走り方の種類を学ぼう!』(2024年6月)
1894(明治27)年からは、このコースキに歩法を限定した、農民たちの競馬も行われるようになりました。

しかしやはり機械化の波には抗えず、仕事を失った宮古馬はどんどん数を減らしました。
保存活動は旧・平良ひらら市主導で1977年から始まり、1980年に保存会が結成された時点で残りわずか14頭。
その後日本馬事協会も保存に乗り出し、1983年から1988年にかけて遺伝的に宮古馬を祖先に持つ「粟国馬あぐにうま」7頭の宮古島への里帰り計画が実施され、かろうじて全滅のピンチを脱しました。

宮古馬は1991年に沖縄県の天然記念物に指定されています。

現在の取り組みと課題

2015年、その当時の目標であった50頭まで数が増える見込みが立ちました。
それ自体は喜ばしいことだったのですが、当時の保存会はこれを機に「繁殖力の低い馬や高齢馬を保存対象から外す」=「飼育者への補助金を打ち切り」を発表します。
もちろん飼育者や専門部会は猛反対。
その後の保存会の動きに注目が集まったことで新聞報道されるに至りました。

2018年10月末にはこの計画をゼロベースで見直すことが報道されました。
そして、保存会の管轄が宮古島市の「畜産課」から「教育委員会」へ移ることになり、保護活用にいっそう力を入れるとのことでした。

これでひと安心…と思いきや、直後の12月、さらに衝撃的な事件が週刊誌で取り上げられます。
それは、一部の飼育者による馬への虐待でした。
少なくとも2016年から、糞尿にまみれた劣悪な環境でまともな飼育もせず馬を死なせ、遺体も放置していたという惨状が繰り返し報道されました。
保存会の管理責任が問われる事態となり、保存会は、問題を起こした一部の飼育者から馬を取り戻して直接飼育管理する対応を取りました。

一連のできごとに対する反省から、2020年には新体制での保存活用計画がスタートしています。
宮古馬の管理は市役所が中心となって行い、ひづめの手入れも本州から装蹄師を呼んできちんと手入れしています。
今後も飼育管理に関しては保存会が直接関わることを徹底し、飼育のための委託費用を増額して飼育者の負担軽減に努めたいとしています。

保存会では2030年までに100頭まで数を増やすことを目標にしており、できれば飼育施設を自分で用意できる宮古島在住の新たな飼育者が増えることを望んでいます。
25年以上の長きにわたり宮古馬の保護活用に尽力してこられた荷川取明弘さんは、自らを含む宮古馬飼養者の高齢化と後継者不足を危惧しており、新たに宮古馬の飼育に参入する若年層の確保は喫緊の課題といえます。

また、依然として絶滅寸前の頭数で推移している宮古馬は、近親交配を避けながら繁殖に力を注いでいく必要があります。
そこでモンゴル農業大学で野生馬の「モウコノウマ」研究に取り組んだ経験をもつ荷川取牧場スタッフの増田未央子さんは、荷川取牧場の馬たちを中心に詳細な家系図を作成しました。
保存会としては、今後この家系図も活用し、遺伝的に多様性のある健全な繁殖に取り組みたいとしています。

これから期待される役割

江戸時代まで琉球王府が「馬をもてあそぶ行為」として農民の競馬や乗馬を禁止していたためか、急に猛スピードで走りだしたりすることのない温厚な性質が今も残っている宮古馬。
牧場で放牧メインの暮らしをしている馬の中には人に馴れていないものもいますが、本来の性質からすれば、きちんと調教することで活躍の場が広げられるはずだといわれています。
保存会では宮古馬は島外の人々にとって十分に魅力ある存在だと考えており、ふれあいや乗馬などの観光資源として活用していこうと動いています。

宮古島市が活動の中心になったことで「宮古島市地域おこし協力隊」が宮古馬の保護活用に積極的に関わるようになってきています。
課題のひとつとして挙げた「地元の人にも知ってもらう」ために、『宮古馬展』と題した写真展や保護活用に関するシンポジウムを開催するなど新たな取り組みに挑戦しています。
また、荷川取さんが施設内の宮古馬の管理を委託されている「まいぱり宮古島熱帯果樹園」で、宮古馬とのふれあいイベントも開催。
「シートーヤ」という宮古馬をつないで歩かせることでサトウキビを挽く道具を復活させ、かつて多くの宮古馬が農家で働いていた頃の姿の再現が行われました。
子どもたちにとっては島独自の文化を知る郷土学習として大きな意味を持ち、年配の方々にとっては昔を懐かしむ貴重な機会となったそうです。

保存会としては「宮古馬の保護活用に奔走しているのは島外から来た人が多く、今後はいかに地元の人にももっと宮古馬に興味を持ってもらえるかも課題のひとつ」と考えているようです。
ただ、島外から来たからこそよく見えるモノもあるでしょうし、インパクトを与える動きができることもあると思います。
島外者発信でも、そこから地元の人をどんどん巻き込んで保護活用の活動の輪が広がるよう、これからも宮古島市としては取り組みを支援していってもらいたいですね。

今はリモートでお仕事が完結する方もいらっしゃるでしょうし、もし宮古馬との暮らしに興味を持たれたら、ぜひ移住先として検討されてみてはいかがでしょうか。

保存団体情報

宮古馬保存会
〒906-8501 沖縄県宮古島市平良字西里1140
宮古島市教育委員会生涯学習部生涯学習振興課文化財係
TEL:0980-72-3764 FAX:0980-73-1976
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